八神家の朝カーテンの隙間から朝日が部屋に差し込む中。怜奈は毎日の日課のように目覚ましが鳴る前に目が覚めた。怜奈はカーテンの隙間から差し込む光が眩しく。左手を目の前に翳し光を遮りながら、右手で探るように目覚まし時計を探した。「(あれ…?こんなに眩しかったっけ?)」 いつまでたっても目覚まし時計は見つからず、代わりに生暖かい物を触った。 「ふにゃ」 「ふにゃ?」 聞き覚えのある声に、怜奈はさっきより注意深く右手で探ると少し出っ張った柔らかい2つの感触が合った。 「(あれ…?この感触…)」 「こしょばいですよ~」 寝起きでまだ頭がまだ回らない怜奈は右隣から聞こえる声の主を確かめようと顔を右に向けると、そこにはスヤスヤと寝息を立てて幸せそうな表情で梓が眠っていた。怜奈は驚きのあまり上半身が反射的に跳ね起きた。 「(はぃぃぃぃっ!?な、なんで梓が隣で寝てるの!?)」 何故、隣で梓が寝ているのか?と思いつつ辺りを見渡した。 「って。ここ、私の部屋じゃない。梓の部屋じゃない…どうして?」 怜奈が寝ていた場所は自分の部屋ではなく、八神家の梓の部屋だった。梓の部屋で寝た覚えのない怜奈は、まだ完全に起きていない頭で思い出そうとした。怜奈の独り言に隣で寝ていた梓が目を覚まし、猫のような仕草で目を擦り挨拶した。 「ふぁ~。お姉さま、おはようございます…」 「あっ…、おはよう梓」 「…朝練ですか?」 「そ、そうだけど。ねぇ、梓…私、どうして梓の部屋で寝てるの?」 「……。覚えてないのですか?」 梓に言われ、改めて昨日の事を思い返した。 「(昨日、竹刀の素振りをしていて不思議な体験をした後。顔の右頬の傷の事はどうにか誤魔化して。…その後、梓に勧められて汗でベトベトの体を流そうと2人でお風呂に入って…あれ?その後は?)」 怜奈は右手を額に当てて、昨日の事を思い出そうと何度も考えるがお風呂からあがった後で記憶が途切れ、それ以上のことは思い出せなかった。 「ごめん。お風呂からあがった所まで覚えているんだけど、その後の事は…」 話を聞いた後、梓は少し頬を膨らませ呟いた。 「…寝ていたんですよお姉さま」 「はいぃっ?」 「お風呂から上がった後に宿題を教えてもら思ったら。お姉さま、居間で寝ていて」 「(…そういえば、お風呂からあがった後、居間で梓を待ってたら急に体の力が抜けて…)」 「揺すっても起きてくれないし…このままじゃ、風邪をひいてしまうと思って。お兄ちゃんに頼んだら、お兄ちゃんが私の部屋のベットに運んでくれて」 「緋斗が…」 「けど、やっぱり姉弟ですね…翔希とお姉さまは」 「へっ?いきなりどうしたの?」 「だって…翔希とお姉さまの寝顔がソックリで~」 梓はここぞとばかりに怜奈に抱きついた。 「ちょ、ちょっと…あずさ~」 怜奈は腕で振り払おうとするが、昨日の疲れが完全取れておらず抵抗するので精一杯だった。その間も怜奈の着ていたパジャマが乱れて捲くれ上がり。部屋をノックしている音にも気づかなかった。 「梓、入るぞ……っと」 部屋をノックし入ってきた緋斗はベットの上で悶えている怜奈と目が合った。 「ぁ―――ッ」 「えぇっと、朝起きたら梓に抱きつかれ今に至ると…」 緋斗の冷静な分析に怜奈は無言で頷いた。 「お姉さまとの至福の時が…」 緋斗の介入で渋々引き下がり布団に包まる梓。梓から開放された怜奈はベットからヨロヨロ降りて立ち上がり、乱れた髪形を整えて改めて梓の方に向きなおし両手を組んだ。 「さ~て梓。ちょっとおふざけ過ぎたわね」 「ふぇっ!?」 その言葉に梓はビクッと震え身構えた。 「…怜奈、パジャマが…それに早く用意しないと朝練が間に合わないぞ」 緋斗は怜奈の乳房が見えるか見えないかまで捲れあがったパジャマ姿に目を逸らした。 「あっ…」 小さく声を上げた怜奈は頬を赤め、乳房が見えるか見えないかまで捲れあがったパジャマを慌てて下ろした。 「見えた?」 「…ちょっとだけ」 怜奈の顔の体温が一気に上昇し顔は真っ赤に耳まで赤くなった。 「梓…昨日はごめんね」 顔を真っ赤にした怜奈はそのまま振り返り梓の部屋を後にした。 「れ、怜奈っ!……梓、寝坊して遅刻しないようにな」 緋斗も怜奈を追うように梓の部屋を出た。 「ふぁ~い…お兄ちゃん、お姉さま…いってらっしゃ~い…」 部屋から2人が出て行くのを見送ると、梓はベットに倒れこみ再び眠りにつくのだった。 「おはようございます…」 「おはよう…」 食堂に現れた怜奈と緋斗はどこか余所余所しい雰囲気で顔を真っ赤にしていた。 「おはよう。姉さん、緋斗さん。…どうかしたの顔を真っ赤にして」 食パンを口に頬張りながら翔希は2人に挨拶した。普段の平日ならば翔希は自分の家で怜奈が用意した朝食を食べるのだが。今日は怜奈が昨日から八神家…梓の部屋で寝ていた為、翔希は八神家で朝食をとっていた。 「…なんでもないわ」「…気にすることじゃない」 目線を泳がせながら怜奈と緋色は同時に曖昧に答えた。そんな2人のぎこちない様子に菖蒲は開口早々呟いた。 「もう2人とも…朝からお盛んね」 「母さんッ」「菖蒲さんッ」 怜奈と緋色同時に叫んだ。翔希は言葉の意味がわからず、何故叫んだのかと首を傾げてた。 「菖蒲小母さん。お盛んって?」 「う~ん…翔希くんにはまだ早いわね」 「……?」 翔希と菖蒲の会話に怜奈と緋斗はあえてツッコまず、席に着き菖蒲が用意してくれた朝食。ご飯に味噌汁、ししゃもを食べ始めた。 「あっ、忘れてた」 朝食を食べている最中になにか思い出したかのように声をあげた怜奈は立ち上がった。 「どうしたの怜奈ちゃん?」 「…昨日、帰ってから洗濯物を洗濯機に入れてそのままにしてて寝ちゃって」 「姉さん。僕が代わりに洗濯はしておいたから大丈夫だよ」 「…ありがとう翔希。でも、私がしないといけないのに」 「いいよ。いつも姉さんにまかせっきりなんだし偶には代わるよ」 そんな2人の会話を菖蒲は優しく見守っているのだった。 朝食を終え。怜奈、緋斗、翔希が剣道部の朝練に学園に行くのを玄関の外で見送った菖蒲が家に戻り、一息つこうと「征途さんはいないし梓ちゃんはまだベットの中で夢の中…私も梓ちゃんが起きてくるまでゆっくりしようかしら…」背伸びをしながら食堂に行くと。さも当たり前のように高薙寛人が食卓の席について待っていた。 「やぁ~、菖蒲。朝からご苦労さん。あがらせてもらってるよ」 「…薙くん、住居不法侵入よ」 「まぁ~、まぁ~、硬いことは言わずに」 笑ってごまかす高薙寛人に菖蒲は冷蔵庫からお茶を取り出しコップに注ぎ一口含んだ。 「それにしても菖蒲。朝からお盛んはまずいんじゃない」 「ゲホォゲホォ…。薙くん、どこから話をの前にどこで聞いていたの?」 驚いたショックで菖蒲が飲んでいたお茶が鼻の器官にまで届き咳き込んだ。どうにか落ち着かせた菖蒲が恐る恐る高薙寛人に問いただすと。高薙寛人は笑顔で答えた。 「屋根の上から聞かせてもらっていたよ…翔希くんが『おはよう。姉さん、緋斗さん。…どうかしたの顔を真っ赤にして』って所からかなね」 「それってほとんど始めから聞いていたんじゃない」 「そう言われればそうだね」 「薙く~ん」 屈託のない鷹薙寛人の笑顔に額に青筋を立てながら菖蒲が顔を近づけた。 「あ、菖蒲。顔が近いよ」 「…それで」 菖蒲は振り返り高薙寛人の前の席に腰を下ろし机に両肘を立てた手を組み。組んだ手の甲の上に顎を乗せた。 「盗み聞きに住居不法侵入までしてどうしたのよ一体?」 「痛いところ突いてくるね…」 「誤魔化さない。薙くんがこんな朝早くから尋ねてくるなんて何か大事な用があるからでしょ。それともただの冷やかし?それなら怒るわよ…」 つい熱くなった菖蒲は両手を机に叩きつけ叫んだ。笑顔だった鷹薙寛人の表情が真剣なり。 「また生徒が狙われたんだよ」 「えッ!?」 「前回の事件以来、僕達が見回りをしていたから襲われる前に未然に防げたけどね。ただ狙われた生徒達はみんな運動部の武術系の部活に所属している実力者ばかりなんだよ。それにね…」 「ちょっと待って、薙くん。生徒達って、狙われた生徒は複数いるの!?」 「菖蒲の言う通り狙われた生徒は複数。それと狙われた生徒達はみんな奇妙な事を言っているんだよ『目の前に自分自身がいた』ってね」 「目の前に自分自身がいた?(ちょっとまって、それってまるであいつの…いえ、それはありえないわ。だって…)」 菖蒲には1人思い当たる人物がいた。だがその人物が学園の生徒を襲う理由が分からなかった。考え込んでいる菖蒲の表情を読み取った高薙寛人が呟いた。 「菖蒲…君が思い当たる人物じゃないよ」 「…そうよね。だって彼女は、今も巷で…」 「お母さん、おはよ~…」 菖蒲の言葉を遮る様に。二度寝から起きた、寝ぼけ顔の梓が食堂にやってきた。 「梓ちゃんが起きてきたようだから…僕もお暇するね。時間が空いた時にまた来るよ」 そう言うと高薙寛人は音もなくその場から姿を消え失せるのだった。 「高薙先生?」 梓は寝ぼけ眼を両手で擦り見るが、その場にはすでに高薙先生はいなかった。 「おはよう梓ちゃん。昨日はよく眠れた?」 「ちょっと寝不足…」 「あらあら」 菖蒲は笑顔で微笑んだ。 「(やっぱりいつものお母さんだ)ねぇ~、お母さん…今、高薙先生がいなかった?」 「なに言ってるのよ梓ちゃん…朝から寝ぼけちゃって。高薙先生が朝早くからいるはずないでしょ~」 「ふぇ~?」 梓は?マークを出しながら首を傾げた。 八神家の居間から姿を消した高薙寛人は八神家の屋根の上で一人独りごちし ていた。 「次は秦の家だね…」 第5話に続く ジャンル別一覧
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